胃のサイエンスでは「胃粘液バリアー」のコーナーを8月に新設しました。すでに、お読みいただけましたか?
身体の内側にある臓器の中で、消化器官は病原体や飲食物など外部からの刺激を受けやすい器官です。口腔から、食道、胃、腸、肛門までの約9mの1本の管になっています。消化器官は、食物を消化して栄養素として吸収する働きを持ち、各臓器の働きはそれぞれ異なります。
胃では、食物を腸で吸収しやすいように消化(分解)する働きを行います。消化の仕組みとしては、胃酸などが分泌されて行われる「化学的消化」と蠕動(ぜんどう)運動による「機械的消化」が行われています。胃酸や食物を蠕動運動により混ぜ合わせて腸へ送る運動が消化運動です。
化学的消化では、p H 1~2と酸性度が高い胃酸やペプシンという蛋白質を分解する酵素の働きをかりて、食物の分解が行われます。胃酸は、食物を分解するだけではなく、食物等と同時に摂取された細菌などを殺菌する役割も担っています。
強酸性の液体を使った化学の実験を学生時代に行った経験ありませんか?鼻にツーンとくる匂い。衣服につけて穴を開けてしまったこと。手につけてヒリヒリしたことはありませんか?
胃の壁からは酸やペプシンが分泌されます。では、胃も蛋白質なのになぜ溶けないのでしょうか?
胃が胃酸の影響を受けない理由には、"胃粘液"の存在があります。胃粘液は、胃酸同様に胃で作られ、胃粘膜の表面を0.5~2.5mm程度の薄いベールとなって覆っています。胃粘液は、胃酸などの働きを中和すること、アルコールや薬剤などの刺激から胃粘膜をガードしています。
"No mucus ,No protection"(粘液のないところでは、防御は成立しない)、「健康な胃は胃粘液に守られている」のです。常に胃酸などの消化因子と胃を守る防御因子のバランスが大切なのです。
胃粘液が減ったり、胃酸が多くなりすぎたりすると胃の粘膜が胃酸によってダメージを受けて炎症を引き起こすようになります。粘膜へのダメージがひどくなると、粘膜が抉れて(えぐれて)胃潰瘍を引き起こすこともあるため注意が必要です。
胃の不快感の原因のひとつと考えられる胃粘液の減少について、また胃粘液を増やす方法については、「胃粘液バリアー」でご紹介します。是非一度、ご一読ください。